最終更新:2020年3月29日


第10回日本台湾学会賞
選考委員会報告書

(1)選考委員会の開催

 日本台湾学会賞選考委員会は、山口守委員長、野間信幸委員、松田康博委員、松金公正委員、三尾裕子委員から構成された。同委員会は、『日本台湾学会報』第19号(2017年10月刊行)及び第20号(2018年7月刊行)の掲載論文を対象に、メールにより各委員の意見交換を行うとともに、各理事からの推薦も参考にして、選考委員会を開催して、選考作業を行った。

(2)選考経過と結果

 学会賞選考委員会は、第1回から第9回までの選考方針と実績に留意し、各論文を慎重に審議した結果、以下の2篇を学会賞授賞論文として選定し、2019年3月1日に開催された第10期第6回常任理事会で報告し、承認された。

☆受賞論文
*歴史社会分野
・該当なし

*文化文学言語分野
・倉本知明「移民工文学賞という試み―包摂と排除の狭間で―」(第20号)

*政治経済分野
・福永玄弥「性的少数者の制度への包摂をめぐるポリティクス―台湾のジェンダー平等教育法を事例に―」(第19号)

(3)推薦理由

1.歴史社会分野
・該当なし


2.文化文学言語分野
・倉本知明「移民工文学賞という試み―包摂と排除の狭間で―」
2014年に始まる移民工文学賞は、東南アジア出身の労働者や外国人花嫁などが急増した状況を受け、これら外国人移住者の生活や内心を台湾社会に届けることを目的として設立された。社会から疎外されてきた移民の声に耳を傾けようとする試みは、多元的文化社会を構築しようとする台湾社会の新たな潮流に呼応するものとなり、文学イベントを超えて、政治的・社会的運動にもリンクする性格を帯びてゆく。台湾社会に包摂される多様性に着目した移民工文学賞は、移民工たちの生の声を掬い取るべく、母国語で書かれた作品を当初より募集しており、この多言語による創作が本賞の特徴を形成することにもなったのである。しかし応募作品を審査するには、まず漢語に翻訳する必要があり、その後校正や修正の編集段階を経て、最後に審査員に届けられる。本論は審査に至るまでの過程において、翻訳者や校正者など第三者の関与や介入がシステム上避けられず、各段階での作業が原作品の質を左右する事態に陥っていることを、丁寧に例証してゆく。結果的に、審査員が読むのは原作品が已に歪められ変形してしまったものであるから、審査は初めから「誤読」に基づいて行われていると指摘するのである。こうして移民工文学賞は、言語の多様性を標榜した当初の目的から乖離してしまい、原作を一言語(国語)の中に回収してゆく事態を招く。作品検証に基づいた倉本氏の分析と批判には説得力があり、学会賞に相応しい好論文である。

3.政治経済分野
・福永玄弥「性的少数者の制度への包摂をめぐるポリティクス―台湾のジェンダー平等教育法を事例に―」
本論文は、ジェンダー平等教育法に、それまでの性別やジェンダーの他に性的志向や性自認やジェンダー気質などの概念を導入し、学校における教職員・生徒の中の性的少数者を守る方向へと大きく転換したプロセスを丹念に追い、実証的に明らかにした論文である。単に「台湾は同性婚が認められており、日本よりも進んでいる」というような表面的な言説が飛び交う中、台湾の性的少数者をめぐるポリティクスの展開を、日本その他と比較・対照をしつつ精密に探求している。台湾では、女性運動が早くから成長を遂げていたことにより、同性愛やトランスジェンダーをめぐる問題関心が草案起草に従事したフェミニストを介して立法へ包摂されるというやや異例なプロセスをたどった 。台湾で1990年代以降展開された多様なアイデンティティ・ポリティクスの中で、性的少数者をめぐるポリティクスがどのような位置づけにあるかについての考察があればよりよかったと言えるが、そのことが本論文の価値に大きく影響することはなく、高い評価を与えることができる。

以上
第10回選考委員会委員長
山口守

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