最終更新:2011年2月1日


日本台湾学会台北定例研究会
第41-44回

第44回
日時 2007年12月8日(土) 15:00開始
場所 国立台北教育大学(旧・国立台北師範学院)
行政大楼506室(社会科教育系討論室)
(台北市大安区和平東路2段134号)
報告者 松本 充豊 氏(長崎外国語大学外国語学部)
テーマ 「台湾の民主化と戦略的ポピュリズム(仮題)」
使用言語 日本語
コメンテーター 石原 忠浩 氏(前交流協会台北事務所専門調査員)
参加費 無料

第43回
日時 2007年11月17日(土) 15:00開始
場所 国立台北教育大学(旧・国立台北師範学院)
行政大楼506室(社会科教育系討論室)
(台北市大安区和平東路2段134号)
報告者 李 衣雲 氏(政治大学台湾史研究所)
テーマ 「台湾における「哈日現象」の展開について、1945-2003」
使用言語 日本語(質疑応答は北京語および日本語)
コメンテーター 羅 慧雯 氏(世新大学伝播管理系)
参加費 無料
参加体験記
 2007年11月17日に台北教育大学にて第43回台北例会がおこなわれた。もともと10月上旬に予定されていた例会だったが、台風の影響でこの日に延期 となった。報告者は李衣雲氏(政治大学台湾史研究所)、コメンテーターに羅慧ブン[漢字はあめかんむりの下に文]氏(世新大学伝播管理学系)で、14名の 参加者があった。
 テーマは「台湾における「哈日現象」の展開について、1945-2003」、李氏は同名の博士論文で2006年度に東京大学で博士号を取得している。
 台湾においては1990年代に日本の大衆文化の受容が急速に広がり、哈日族などといった呼称も現れた。この時期の哈日現象については、たとえば日本のド ラマについてなど、すでに少なからぬ研究が発表されているが、李氏は哈日を日本統治が終わってから今日までの長期的な現象としてとらえ、その多様性や流動 性に注目した。李氏の報告の概要は以下のとおりである。
 哈日というのは90年代以降に突如出現した現象ではない。それは日本統治期、そして1945年以降の台湾における共通の経験、集団的記憶にもとづくもの であり、長期にわたって醸成されてきたものである。ブルデューの理論に拠れば、「中国本位の集団的記憶」に対抗すべく、日本統治を経験した本省人らのあい だで身体化された「台湾本位の集団記憶」が、家庭などでの日常生活をとおして次世代にも伝えられたと考えることができる。ただそこで共有される「日本」へ の親近感は、具体的経験にはもとづかない「虚像」にささえられていた(「虚像」という点では、「中国本位の集団的記憶」に依拠する「敵」としての「日本」 も同様)。こうした親近感は、1990年代以前の日本大衆文化の「地下」での流通を後押ししていた。
 90年代に日本の大衆文化が解禁されて以降、長年蓄積されてきた「日本」に対する憧憬は、哈日風と呼ばれることになる現象の力強いバックボーンとなっ た。各メディアをとおして伝えられるさまざまな事物や風景に対する正の日本イメージは、個々のケースに対する評価を超えて、「日本」を進歩性、高品質を体 現する記号として機能させるにいたった(たとえば「日式拉麺」、「日式百貨公司)。しかし90年代後半以降、哈日の経済的利益や話題性は徐々に低下してい る。
 台湾社会の哈日を考察するにあたっては、その「虚像」と「実体」を区分する必要がある。そうすることによって、台湾社会においてことなった集団的記憶を 有する人々が、みずからの理想や願望が投影された「虚像」としての「日本」を受容するさまを的確に分析することが可能になる。「虚像」と「実体」を混同し たままでは、たとえば哈日現象を単純に「媚日」と位置づけるような批判におちいってしまうことになる。
 以上の報告に対し、コメンテーターの羅氏からは、歴史社会学の手法や文化理論を駆使し、長期、広範囲の事象にわたる分析をおこなっている点に対する評価 が示された。一方、国民党政府の文化政策の変化をくわしく参照したら興味深い知見が得られるのではないかという提言などもあった(台日間の外交関係が良好 なときには、日本の大衆文化に対するコントロールも相対的にゆるかった)。
 その後の質疑応答では活発な討論がかわされた。その一部をあげれば、90年代以前の日本の大衆文化の流入を、90年代の哈日現象との連続性でとらえるこ との妥当性、日本の大衆文化の受容と日本に対する好感度の連関、哈日のなかに存在する多様性(例:世代、メディア)、いわゆる韓流と哈日の比較、台湾社会 と韓国社会での日本大衆文化の受容の異同、などといったことが話題にのぼった。
 哈日現象が言われるようになってからすでに久しく、哈日という語にも何ら新鮮さはない。しかし討論中も指摘があったように、これまで何をもって哈日が語 られてきたのかと考えてみると、対象や関連領域の多様性にあらためて気づかずにはいられない。こうした困難なテーマにあえて取り組み、さらに日本統治およ びそれ以降の歴史の文脈のなかに、哈日を単なる印象論にとどまらず理論的に位置づけようとした李氏のこころみは、私にとっては刺激的で説得力を持つもので あり、おおいに好奇心をかきたてられた。(冨田哲記)

第42回
日時 2007年5月26日(土) 15:00開始
場所 国立台北教育大学(旧・国立台北師範学院)
行政大楼506室(社会科教育系討論室)
(台北市大安区和平東路2段134号)
報告者 李 宗栄 氏(中央研究院社会学研究所)
テーマ 「在國家與家族之間:台灣企業董監事網絡的形成與演變」
使用言語 北京語
コメンテーター 田畠 真弓 氏(中央研究院社会学研究所訪問研究員)
参加費 無料

第41回
日時 2007年2月3日(土) 15:00開始
場所 国立台北教育大学(旧・国立台北師範学院)
行政大楼506室(社会科教育系討論室)
(台北市大安区和平東路2段134号)
報告者 佐藤 幸人 氏(アジア経済研究所)
テーマ 「中国コンビニエンスストア事業における戦略の選択―セブンイレブンとファミリーマート―」
使用言語 日本語
参加費 無料
参加体験記
 2007年2月3日午後3時より台北教育大学において第41回台北定例研究会が行われた。報告者はアジア経済研究所の佐藤幸人氏であり、コメンテーターは特に置かれず、参加者は8名であった。報告および質疑応答は日本語で行われた。
 報告は、「中国に於けるコンビニエンスストア・チェーンの戦略選択 セブンイレブンとファミリーマート」と題し、行われた。2004年、セブンイレブン・ジャパンとファミリーマートが中国の北京と上海に進出した際に、それぞれが対照的な戦略を選択した。ファミリーマートの戦略は、子会社の台湾ファミリーマートが上海ファミリーマートの経営に積極的に参与していること、上海ファミリーマートが伊藤忠・ファミリーマート・グループと地場資本の頂新グループの合弁会社であること、という二点からチーム経営戦略と呼べる。一方、セブンイレブン・ジャパンの戦略は、セブンイレブン北京はセブンイレブン・ジャパンと地場資本の合弁だが地場資本は経営に関与していないことから単独経営戦略といえる。このような異なる戦略の選択理由を検討すること、同時に異なる戦略が持つ効果も考慮することが研究の目的である。
 この研究は、この戦略選択の決定過程を進化論アプローチに基づきなら検討している。この進化論アプローチの利点は、(1)選ばれなかった選択肢(2)偶発性(「怪我の功名」)(3)企業家精神など眼に見えない要素を考慮に入れることが出来る点である。また戦略とは従前に蓄積された資源に大きく依存し、資源のうち重要なのは経験および経験から抽出された知識であると考える。
 合理主義的に対抗仮説を立てれば、規模の大きいセブンイレブン・ジャパンは単独経営戦略を選択し、比較的規模の小さいファミリーマートはチーム経営戦略を選択したという規模の違いに基づく合理的な選択となるが、この研究ではそれは不十分と考える。というのは、規模が大きいことは単独経営を容易にするがチーム経営を排除する理由にはならない、また規模が小さいことは単独経営を困難にするがチーム経営を容易にするわけではない、からである。この点が、合理主義に基づいた規模仮説の限界である。
 それに対し、進化論アプローチから仮説を立てれば、ファミリーマートのチーム経営戦略は、過去の海外経営の経験に基づき、チーム経営戦略の有効性を認識していたこと、また、台湾子会社が持つ経験を活用する事が出来たことを理由に選択された。また、セブンイレブン・ジャパンの単独経営戦略は、海外経営の経験の欠如と、国内での華々しい成功経験を理由に選択された、といえる。
 現在までのところ、二つの戦略は次のような効果をもたらしている。上海ファミリーマートの事業モデルはやや折衷的であり、理想的モデルとはいえないが、台湾ファミリーマートが持つ言語などの文化的資源、台湾ファミリーマートを立ち上げた経験を持つ人的資源を利用することによって事業の立ち上げ、拡張の速度を速めることができた。一方、セブンイレブン北京は、立ち上げに時間がかかっているが、より革新的な事業モデルを構築できる可能性がある。そして、セブンイレブン・ジャパンは北京において、日本で構築した事業モデルの一般性を実験し、セブンイレブン・チェーンのグローバル・スタンダードを見つけ出そうとしている。
 インプリケーションとしては、これまでの直接投資研究が一方的な影響に着目してきたのに対し、この研究の事例は、多国籍企業の子会社による知識の創造と、知識の多方向的な流れを示すものであり、そこには第三次産業の知識の特性があるとした。
 質疑応答では、日本・台湾・中国のコンビニエンスストアの相違点に関する質問、セブンイレブン北京の事業モデルは現地の状況を踏まえていないだけではないか、台湾でセブンイレブンを展開する統一グループに関する質問やコンビニに付きまとう日本的なものとはなにか、など活発に議論が行われた。
 今回の報告での私個人の感想としては、台湾・日本で何気なく利用していたコンビニエンスストアの実情を知り、身近な事こそ気付きにくいという事実を考えさせられたこと、また合理主義的な説明が持つ限界への指摘、戦略の選択がもつ偶発性や資源の中にこれまでの経験を含めるという考え方は歴史を専攻する私にとっても重要な考え方ではないかと思ったことである。(安達信裕記)

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