最終更新:2011年2月1日


第5回日本台湾学会賞
選考委員会報告書

(1)選考委員会の開催

第5回日本台湾学会賞選考委員会は下記の要領で開催された。

日時:2009年4月11日(土) 午後1:30-4:00

場所:日本大学 本館1階C会議室

出席者:
下村作次郎(委員長/文化文学言語分野)
中島 利郎(副委員長/文化文学言語分野)
小笠原欣幸(委員/政治経済分野)
大橋 英夫(委員/政治経済分野)
松田 吉郎(委員/歴史社会分野)
清水  純(委員/歴史社会分野)

(2)選考経過と結果

 冒頭に、委員長より、日本台湾学会賞の趣旨と規定および過去4回の日本台湾学会賞の受賞状況について経過説明をおこない、その後選考に入った。
ついで、あらかじめ配布していた「学会賞理事推薦論文」を踏まえて各委員が選考対象論文について講評しながら、各分野について授賞候補作を推奨し、それらをめぐって意見交換・質疑応答を行った。
推奨された諸論文に対して順位づけを含めた論議をおこない、それを整理して、候補論文は最終的に三点に絞られた。その結果、審査委員会として、次の3編の論文を常任理事会に推薦することに決まった。

文化文学言語分野:和泉司「懸賞当選賞としての「パパイヤのある街」―『改造』懸賞創作と植民地〈文壇〉」(第10号)
政治経済分野 :石川誠人「アメリカの許容下での「大陸反抗」の追求―国府の雲南省反攻拠点化計画の構想と挫折」(第10号)
歴史社会分野  :石垣直「現代台湾の多文化主義と先住権の行方―〈原住民族〉による土地をめぐる権利回復運動の事例から」(第9号)
最後に、報告書、各分野の推薦理由作成の分担を決めた。

(3)推薦理由

文化文学言語分野
日本統治期における台湾文学研究において、台湾人作家に関する作品論や作家論では、従来往々にして日本統治圧政下の台湾人の苦悩や差別に着目し、統治の矛盾やそれに対する抵抗に論及して日本統治批判に結びつけるという手法に終始しがちであった。しかし、泉論文は、「内地」の著名雑誌の「懸賞」制度に着目し、その応募入選作・龍瑛宗「パパイヤのある街」の描写や構成の分析を通して、龍瑛宗がこの作品を懸賞に当選させるために、審査員を含む『改造』読者にいかに読まれるか、つまり中央文壇進出を最大限に考慮して書いたものであることを論証した。さらに、泉論文はそのような意図で書かれたこの作品は、中央との不公平な関係へ切り込む意味を持っていること、また当選以後の台湾文壇における龍瑛宗の過酷な状況等の指摘を含め、日本統治期の台湾文学研究に従来とは異なる新たな視点と広がりをもたらした点できわめて斬新で、今後の台湾文学研究の可能性に大いに貢献したといえる。尚、今回学会賞にノミネートされた論文中、理事会においても最も推薦の集まった論文であったことを付記しておく。(中島利郎)

政治経済分野
アメリカと台湾で公開される外交文書を用いた政治外交史研究の進展は近年著しい。受賞論文は,雲南省反抗拠点化計画というこれまでほとんど日が当たらなかったテーマについて,米台の資料を広範に渉猟しその実態を深く掘り下げている。ビルマ側に越境した遊撃部隊を活用しようとする蒋介石政権,その動きを警戒しつつも完全にはやめさせないアイゼンハワー政権,中国とビルマの交渉,ラオスやタイの動き,ケネディ政権の東南アジア戦略といった当時の錯綜する国際政治の駆け引きが豊富な資料の読み込みの中から浮かび上がる。蒋介石の「大陸反抗」の内実,および,1950年代末から60年代初頭の米台関係を明らかにしたことに高い評価を与えることができる。
 なお,学会賞政治経済分野で外交史(米台関係)研究論文の受賞が今回を含めて3回連続となっていることに鑑み,外交資料を渉猟し「動かぬ証拠」を積み上げる研究手法は,優れた手法であり安定した評価を得やすいが,異なる研究手法を用いた研究についても,それぞれの分野での達成度・貢献の度合いを見て,評価する必要があるということが委員の共通認識であった。(小笠原欣幸)

歴史社会分野
グローバル化に伴って世界各地に広まった多文化主義とは、国内に存在する諸集団の文化的多様性を認めつつ国民国家を統合しようとするイデオロギーである。その世界的潮流を受けて、台湾でも1980年代以降の民主化進展に伴って、族群各集団の多様性を認める政治的方向性が明確に示されるようになった。しかし、それによって台湾の各族群集団の権利承認の確固たる下地ができたと考えるにはなお問題があることを、受賞論文はその考察を通して指摘している。本論文の主題は、台湾原住民族の「先住権」が多文化主義の中でどう扱われているか、という点にあり、なかでも、土地に対する権利に焦点が当てられる。著者は、原住民の土地に対する権利要求運動の経緯及び政府の政策や法制度などを分析し、原住民の権利保護がこれまで十分にはなされてこなかったことの原因が、実は多文化主義のイデオロギーと先住権保護の考え方との相克にあることを炙り出すことに成功している。しかも、従来の文化人類学の研究領域にとどまることなく、法律や政治分野における国際的な研究に丁寧に目配りすることによって、世界の少数民族の権利回復をめぐる議論の中に台湾原住民の事例を位置づけている点でも評価できるものであり、本学会賞受賞作品にふさわしいものと判断される。(清水純)
第5回選考委員会委員長
下村作次郎
2009年6月6日

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