日本台湾学会台北定例研究会


 

第10回

 

日時 2002年7月31日(水) 18:30-20:30
場所 国立台北師範学院 行政大楼506室(社会科教育系討論室)
(台北市大安区和平東路二段134号)
報告者 伊藤 信悟 氏(富士総合研究所/台湾経済研究院)
テーマ 「中台WTO加盟による中台経済関係の変化」
使用言語 日本語
参加費 無料



参加体験記
 7月31日開催の台北定例会のテーマは「WTO加盟による中台経済関係の変化」で,報告者は富士総研の伊藤信悟氏であった。報告の要旨は以下のとおりである。
 WTOは昨年11月、中国と台湾の加盟を正式に承認した。このことが、台湾政府が今活発に議論している「三通」(大陸との通商、通航、通信の解禁)をある程度促進させる効果を持つことは間違いない。というのも、三通規制の中にはWTOルールに違反する分野がいまだにたくさん存在しているからだ。台湾は、 WTO加盟により「三通」促進を国際公約したことになり、その圧力の下この問題の進展の速度を上げざるをえなくなった、といえる。
 台湾政府は、2001年8月以降、経済発展諮問委員会議両岸組のコンセンサスに基づき、徐々に「三通」規制の見直しを進めている。通商、とりわけ貿易に関していえば、以前は対中輸出、対中輸入とも、第三国・地域の業者を経由しなければならなかったが、2002年の2月より、中国の業者と台湾の業者が、直接、契約を結ぶことができるようになった。しかし、通信分野を例に挙げるならば、現在でも台湾と中国との直接的な通信は禁止されており、中国企業は、台湾の通信サービスへ参入することができない。この規制は、当然WTOルールに違反している。
 将来、両岸当局が「三通」規制の見直しを順調に進めていくならば、台湾と大陸との経済的な関係はより緊密なものとなると予想される。それにともない、台湾企業が製造拠点をコストのかからない大陸に移す動きを加速させることにより、台湾内の産業空洞化が進むのではないかという懸念があるが、先行研究の多くは、現時点ではその様な現象が起こっていないと結論付けている。しかしその一方で、研究に使われているデータが最新のものではないという点、また、最近の台湾経済の不調と失業率の上昇という点を考慮して、果たしてそのように結論付けることができかどうか疑問が残っている。そして、この「産業空洞化」を検証する際、採用する指標や検証期間により結論が大きく左右されるため、検証基準を統一することが課題として求められているのが現状である。

 報告を聞いてこれから注目してみたいと思ったのは、中台のWTO加盟により、WTOルールに抵触する三通規制がどのように改変されていくのか、そして、その動きが、WTOルールに抵触していない三通規制の解除のスピードにどのような影響を与えていくのか、である。WTO加盟がもたらす中台間の経済関係の変化は、将来、両者の民間レベルでの交流、さらには、政治的な問題においても大きな影響を与えることは間違いない。今回の定例会に出席して、この地域の関係を見る新たな視点を学ぶことができたと思う。(名越正貴記)