最終更新:2021年6月15日

第11回日本台湾学会賞
選考委員会報告書


 

(1)選考委員会の開催

 日本台湾学会賞選考委員会は、山口守委員長、植野弘子委員、三澤真美恵委員、松本充豊委員、赤松美和子委員から構成された。同委員会は、『日本台湾学会報』第21号及び第22号の掲載論文を対象に、今期理事及び名誉理事長に候補論文推薦を依頼し、回答を集約した。その後、情報セキュリティに十分配慮した上で、オンラインミーティングを利用して、全委員参加のもと選考委員会を開催した。

(2)選考経過と結果

 学会賞選考委員会は、第1回から第10回までの選考方針と実績に留意し、各論文を慎重に審議した結果、以下の2篇を学会賞授賞論文として選定し、2021年3月7日に開催された第11期第6回常任理事会で報告し、承認された。

☆受賞論文

*歴史社会分野

・新田龍希「胥吏と台湾の割譲 ― 南部台湾における田賦徴収請負機構の解体をめぐって 」(第21号)

*文化文学言語分野

・該当なし

*政治経済分野

・鶴園裕基「日華平和条約と日本華僑 ― 五二年体制下における「中国人」の国籍帰属問題(1951-1952)」(第22号)

(3)推薦理由

1.歴史社会分野

・新田龍希「胥吏と台湾の割譲 ― 南部台湾における田賦徴収請負機構の解体をめぐって 」

台湾史研究において、政権交替に基づく歴史記述を克服する必要性が叫ばれて久しいが、本論文は、個人や家族といった比較的容易に画期を通貫しうる研究対象ではなく、 国家統治と現地社会関係のレベルで1895年前後の連続と断絶の問題に挑んでいる。すなわち、清・光緒年間に南部台湾の府県衙門で働いていた胥吏及び衙役に着目し、彼らの一部が日本による植民地統治の開始後も継続して総督府の地方県庁で働き、通訳や土地税徴収のための帳簿整理などに携わっていたことを、台湾総督府文書中の旧県文書、人事簿冊を博捜することで実証的に明らかにしている。ここから、地方統治における、清朝の地方衙門から台湾総督府への統治技術の継受という連続性の側面と、清代の中間団体としての胥吏及び衙役による土地税徴収請負機構が台湾割譲後に解体したという断絶の側面、これら二つの側面を、1895年前後を跨ぐ新たな視点として提示することに成功している。加えて、福佬語─官話─日本語という二重通訳において、胥吏をはじめとする漢人の官話話者が果たした具体的な役割を指摘したことも、当該時期台湾社会の言語状況に対する理解を深めている。

2.文化文学言語分野

・該当なし

3.政治経済分野

・鶴園裕基「日華平和条約と日本華僑 ― 五二年体制下における「中国人」の国籍帰属問題(1951-1952)」

本論文は、戦後の日本華僑の法的地位問題(在日台湾人の帰属問題)をめぐる政治過程を、日本国内の法制化および日華平和条約に至る日華間の外交交渉という2つの側面から実証的に分析し、日本華僑の法的地位があいまいな「中国籍」に留め置かれたことを明らかにしている。在日台湾人の帰属問題という台湾研究と華僑研究の接点となる題材を取り上げ、両者の接合を果たすとともに、日本華僑の法的地位という新たな切り口から戦後の日中台の国際関係史の重要な側面に光を当てた力作であり、その新規性と独創性は高く評価することができる。華僑関連文書や外交文書をはじめ日台の資料を幅広くかつ丹念に読み解き、出入国管理令への日本華僑の反応、それにかかわる国会審議、日華条約交渉と条文解釈の各段階を重層的に考察することで、この問題をめぐる政治過程のダイナミズムを描き出し、説得力のある議論を展開している。また、在日朝鮮人の処遇や日本の対韓国外交との違いなど朝鮮半島との対比も視野に入れられており、今後さらに広がりを持った研究へと発展してくことが期待できる。

以上

第11回選考委員会委員長
山口守