最終更新:2023年6月18日

第12回日本台湾学会賞
選考委員会報告書


 

(1)選考委員会の開催

 日本台湾学会賞選考委員会は、垂水千恵委員長、松本充豊副委員長、北村嘉恵委員、清水純委員、三須祐介委員から構成された。同委員会は、『日本台湾学会報』第23号及び第24号の掲載論文を対象に、今期理事及び名誉理事長に候補論文推薦を依頼し、回答を集約した。その後、情報セキュリティに十分配慮した上で、オンラインミーティングを利用して、全委員参加のもと選考委員会を開催した。

(2)選考経過と結果

 学会賞選考委員会は、2021年5月29日第23回総会にて改正の「日本台湾学会賞規定」、および第1回から第11回までの選考方針と実績に留意し、各論文を慎重に審議した結果、以下の1篇を学会賞授賞論文として選定し、2023年3月3日に開催された第12期第6回常任理事会で報告し、承認された。

☆受賞論文

*歴史社会分野

・該当なし

*文化文学言語分野

・周頡「近代法と原住民の在来知の葛藤とその行方――Talum Suqluman 狩猟事案をめぐる憲法解釈から――」(第24号)

*政治経済分野

・該当なし

(3)推薦理由

1.歴史社会分野

・該当なし

2.文化文学言語分野

・周頡「近代法と原住民の在来知の葛藤とその行方――Talum Suqluman 狩猟事案をめぐる憲法解釈から――」
本論は、原住民の狩猟事案に関する司法院での憲法解釈を分析の焦点とし、これまで原住民の狩猟行為をめぐって葛藤や齟齬などを生み出してきた現行の法体系と、それに対する原住民の在来知との間の関係性やその在り方について考察した論文である。筆者は、関連諸法はじめ、憲法裁判所における口頭弁論の内容、大法官の最終解釈および協同意見書を取り上げ、文化人類学を中心とする関連諸科学の理論を参考に、丁寧に分析を進めている。そして、台湾社会には原住民文化に対する異なる二つの文化観、すなわち、外部社会が作り上げた文化観と、原住民自身の日常的実践に基づく文化観とが存在することを明らかにした。本論は、これら二つの文化観が反発や対話を通して判決形成に影響することを動態的に描き出しつつ、一人の大法官の言説から、既存の法体系の枠の中で二つの文化観の差異を乗り越えようとする方向性があることを指摘した。異なる価値観の調和という、多元社会を標榜する台湾に課せられた課題への解決の道筋を示唆した点は、今回の審査にあたって分野を超えた評価を得たところである。
本論は、法に関わる研究のなかでは従来あまり試みられてこなかった新しい着眼点に基づく分析を実践しており、今後の研究においてもさらなる考察の広がりや深化が期待できることから、若手研究者の奨励という本学会賞の性格にふさわしく、推薦に値すると考える。


3.政治経済分野

・該当なし

以上

第12回日本台湾学会賞選考委員会
委員長・垂水千恵