また、今年早稲田大学で開かれた第13回学術大会記念講演で、ベネディクト・アンダーソン教授が地域研究に必要なemotional attachmentについて語りましたが、中でもshame and painの自覚が必要であるとの言葉に、私は深く感銘を受けました。台湾研究に引き付けて言えば、それに愛着を感じるならば、常に自らの研究の不足や欠点を恥じる意識を保つことが大切であり、また研究対象とする台湾の社会や人々の痛みへの想像力を欠いてはならないということです。長い異民族統治下で苦しむ原住民の人々、半世紀に及ぶ日本の植民地統治によって流れされた夥しい血と涙、冷戦体制と戒厳令にも関わらず果敢に自由と民主を求めた人々の苦闘、そうした台湾の社会や人々の痛みを深く理解することなしに、台湾研究を行うことはできないのです。今回の地震被害・原発事故に際して、台湾の人々が百数十億円もの義捐金を送ってくれた優しさの背後に、そうした苦痛の歴史があることを忘れることはできません。