日本台湾学会台北定例研究会


 

第2回

 

日時 2001年9月26日(水) 18:30開始
場所 国立台北師範学院 行政大楼506室(社会科教育系討論室)(台北市大安区和平東路二段134号)
報告者 川島 真 氏(北海道大学)
テーマ 「戦後中華民国外交史に関する方法論的考察―档案公開状況と研究の可能性―」
使用言語 日本語
参加費 無料

参加体験記 

 2001年9月26日、「利奇馬」台風が近づく中、国立台北師範学院において第2回台北定例研究会が開催された。川島真氏(北海道大学大学院法学研究科)による「戦後中華民国外交史に関する方法論的考察─档案公開状況と研究の可能性─」と題する報告がなされた。参加者は16名。
 報告は、現在公開の進んでいる中華民国の外交文書を利用して今後いかなる研究が可能となり、また要請されているかという提起と、その一つの研究事例の提供であった。
 まず外交史研究という方法は、公式・新聞情報が信用できないような地域・時代の事実を確定する際に有効性を発揮するという前置きがなされた後、中華民国外交档案の保存・公開状況について、80年代以降、民主化・本土化の影響を受けて、研究が追いつかないほどに档案が公開されている現状が紹介された。
 次に、台湾における「普通の政治史」の不在が批判され、上記の档案を利用した文書研究から「事件史」を紡ぎ出すことにより突破口を開く可能性・必要性があるという提起がなされた。そして、戦後賠償問題の研究事例が提出され、中華民国の対日戦後賠償が実際には終戦前から準備されていたにも拘らず、戦後の国内・国際情勢や日本の外交によって放棄を迫られる過程があったという事実が指摘された。また中華民国の档案公開の意義として、今後英米の視点が支配的になるであろう外交史研究において、東アジアにおける視点を提供する貴重なケースとなるであろうという興味深い指摘もなされた。最後に档案利用に関わる幾つかの留意点が指摘された。
 参加者からは、各種文書の保存・公開状況にかかわる質問の他に、外交文書から見た70年代前後における経済政策の連続性に関する質問、「普通の政治史」の内容を巡る質問、台湾と大陸中国の外交史における(可能的な)研究方法の違いに関する質問などが提出された。
 個人的な感想を述べれば、日本植民地期の経済史を専攻している関係上、日本時代と戦後台湾を連続性の観点から考察するという思考パターンに慣れきった私にとって、政治史研究における1940年代以前の中華民国と50~60年代の中華民国(台湾)というもう一つの「連続性」に目を向ける機会を与えてくれた報告であった。(堀内義隆記)