日本台湾学会台北定例研究会


 

第4回

 

日時 2001年12月2日(日) 18:30-20:30
場所 福華国際文教会館 2F 201会議室 (台北市新生南路3段30号)
報告者  
テーマ 「立法委員及び県市長選挙をめぐって」 はじめに松田康博氏(防衛研究所)から論点を提示していただき、それを中心に議論したいと思います。
使用言語 日本語
会費 一般350元/学生200元
   

参加体験記

 熱くて長い選挙戦が終わった翌日の12月2日、台湾大学に近い福華国際文教会館の会議室で30名近い参加者が集まり第四回台北定例研究会が開催された。今回は、塚本元氏(法政大学)、松田康博氏(防衛研究所)の両氏が「立法委員及び県市長選挙をめぐって」に関して論点を提示し、議論を展開した。
 塚本氏より冒頭、「冷めた、特殊な選挙」という事が述べられたが、その「冷めた」という意味は昨年政権交代のあった総統選挙のような、大変動の無い、「静かな」選挙という意味合いであると思われたが、私自身の感覚で恐縮ではあるが94年の台北、高雄市長選挙以来、95年立法委員選挙、96年総統選挙、98年北高市長選挙、2000年総統選挙を見てきたが、今回は一番「興奮」しなかった選挙であったと思う。同氏からは、以前の県市長選挙、立法委員選挙は政客が地方の利益を奪い合う色彩が強かったが、今回の選挙は「中央政界のパワーゲーム」との関連で議論されたとの認識が提出されたように、陳水扁政権が立法院でも民進党が第一党となることで、国政運営をスムーズにできるかということは重要な焦点であった。
 選挙結果の総括として「国民党の地すべり的大敗、民進党の予測範囲内での勝利」との観点が提出される一方、仮設としながらも、国民党系の地方派系候補者が多く落選した事象に対して「経済のグローバル化の進展により、台湾の地方においても社会経済構造の変化の兆しがあり、ボス的存在である地方派系の勢力が弱まりつつあるのではないか」との指摘は非常に興味深く傾聴した。
 松田氏の報告は8月の定例会において報告された『「ポスト国民党時代」の台湾政治試論』の続編ともいえる内容で、選挙前から選挙後の政局の流れを考察したものであった。松田氏によると
 《第一段階》  李登輝新党としての台聯の結成。この政党は国民党の中国寄り路線に嫌気がするも、民進党には投票したくない、「統独ベクトル」からいくと国民党と民進党の間に位置する層を狙い、両党間の橋渡し的役割を担うものとして登場。(結果的には、今回の選挙で民進党より急進的な独立支持票もかなり吸収し13議席獲得という健闘)
 《第二段階》  選挙期間中、民進党がぶち上げた「国家安定連盟」、李登輝氏が総裁兼会長に就任した政策集団「群策会」は民進党の勝利、国民党の敗北により、民進党主導の安定政権を目指すべく政界再編の動きが加速する様相を示してきた。来年2月の立法院の開会にむけて激しい多数派工作の駆け引きが始まる。
 《第三段階》  2-3年の時間を目標に、安定政権樹立を目標に「台湾版自民党」ともいえる、「台湾人意識」を基本にした新政党の結成を目指すのではないか。
 「台湾版自民党」結成の流れは、至極当然の趨勢にも思うが、やはり中国政府の動きと対中経済依存を深める台湾経済の構造の変化等の要素によって、国内の他勢力及び世論の動向を見ながら、新政党結成の時期は早まるかもしれないし、遅れる可能性もおおいにありうると個人的には感じている。
 中国側の選挙結果に対する反応としては、反統一派の一層の台頭、台湾人による一国両制の拒否、そして中南海の最も忌み嫌う李登輝氏の「復活」等々かなりの衝撃が走ったものと推測できる。中国としてはWTO加入を機に「以商囲政」政策で、台湾の商業会を取り込み、中国資本の台湾への浸透を図り台湾経済社会の香港化を推進するのではないかとの認識も示された。
 最後に、定例会に参加し報告を聞き、自分も討論に参加した感想としては「見樹不見林」と痛感させられた。台湾に数年住めばわかる事だが、政治は台湾人の社会生活にとって欠かせない「娯楽」であることから、常に「政治新聞」を創りあげることに長けた台湾のマスコミに嫌悪感を抱くようになり、私自身普段はテレビや新聞は意識的に避けている傾向がある。その一方で、講師をしながら学生でもあるという立場上、外からの観察者には体験できない貴重な体験や社会の微妙な変化にも反応し、理解してきたつもりであり自負もあった。しかし、長年台湾を客観的に観察している研究者の台湾政治に関する洞察に接し、改めて台湾社会の動態的な政治経済社会の変動を認識することが出来た。あふれ返る「政治新聞」に埋没しないよう、今後も台湾に関心を持ち続けようと感じるしだいである。(石原忠浩記)