日本台湾学会台北定例研究会


 

第5回

 

日時 2002年1月31日(木) 18:30-20:30
場所 国立台北師範学院 行政大楼506室(社会科教育系討論室)
(台北市大安区和平東路二段134号)
報告者 山崎 直也 氏(東京外国語大学大学院博士後期課程)
テーマ 「近年の台湾における教育改革と『教育の本土化』」
使用言語 日本語
参加費 無料

 

参加体験記

 日本台湾学会第5回台北定例研究会は、2002年1月31日に国立台北師範学院で開催され、「近年の台湾における教育改革と『教育の本土化』」(山崎直也氏・東京外国語大学大学院)が報告された。
 戦後台湾の教育に関する研究は、報告者自身によって研究の「空き地」と名づけられたように、地域研究の面からも、比較国際教育学の面からも、共に注目されることが少ない。そこで、まず報告者は、戦後台湾の教育状況をより良く理解するために、1994年が戦後台湾教育改革史上の大転換点であるという枠組みを提起した。なぜなら、「民主化」(改革)の波を受けた台湾の教育が、1994年になると、その方針を、「中国化」(教育の権威主義)に決別し、「本土化」(郷土化、多元化、国際化)へ転換したからである。
 続いて、報告者は、「教育の本土化」の具体的な内容に考察を進めた。主には、新カリキュラム大綱「九年一貫課程綱要」(2001年)と「教育の本土化」との関わりに焦点が当てられた。例えば、「郷土言語教育」の開始や、「認識台湾」の「社会学習領域」への再包摂といった事例の現状が紹介された。
 最後に、報告者はマクロ的観点から次のように言及した。つまり、「教育の本土化」の現在と未来とは、国内的要因(national identity、ethno politics等)と国際的要因(複雑化する両岸関係、globalization等)とによって規定されており、そして、そうであるからこそそれが政治化される契機を常にはらむ、と。
 報告後、ミクロとマクロの両側面から質疑応答が行われた。前者では、教育改革によって多元化し複雑化した教授内容を教師陣が網羅できるのか等について議論された。他方、後者では、教育改革のそもそもの必要性が、戦後台湾の民主化全体(制度改革全体)の中で議論された。(この議論は、次回研究会で、佐藤幸人氏より、「制度疲労」という仮説の下で引き続き考察を予定。)その他、日本による植民地支配という過去を、「教育の本土化」の中で如何に定義付けて展開するのかという問題提起は、大変興味深くしかも難解であった。
 ここで僭越ながら私見を一点。報告者によれば自身の研究は、比較国際教育学と地域研究とから形成されているとのこと。では、本報告に基づく限り、戦後台湾という地域には、そして、他国と比較した場合の戦後台湾の教育には、結局、どのような独自性や特徴があるのか。機会があれば是非拝聴願いたい。
 戦後台湾の教育に関する研究という広範な「空き地」を一人で「開拓」している報告者は、まさに斯界のパイオニアである。従って、更に精密な実証研究、そして、更に大胆な理論構築という「困難」が待ち受けている。だが、そんな心配が不要なことは参加者一同が誰よりも知るところである。(若松大祐 記)