日本台湾学会台北定例研究会


 

第11回

 

日時 2002年9月27日(金) 18:30-20:30
場所 国立台北師範学院 行政大楼506室(社会科教育系討論室)
(台北市大安区和平東路二段134号)
報告者 田畠 真弓 氏(台北医学大学非常勤講師/台湾大学社会学研究所博士後期課程)
テーマ 「日台半導体提携-社会システムとしてのハイテク企業ネットワーク」
使用言語 日本語
参加費 無料



参加体験記
 第11回台北定例研究大会は2002年9月27日、国立台北師範学院にて開催され、田畠真弓女史(台北医学大学非常勤講師/台湾大学社会学研究所博士後期課程)による「日台半導体提携-社会システムとしてのハイテク企業ネットワーク」と題する研究の枠組みが報告された。
 本報告の研究テーマは、往々にして経営学的アプローチを要とし、マクロ的な経済資本の解析を命題とする。しかし女史の研究テーマは「社会ネットワーク理論」という社会学的見地から社会資本(Social Capital)、即ち人対人、組織対組織との間から産出される資本を解析することに焦点が当てられている。なぜなら、構造主義の言を借りれば、個人は常に社会構造に対し影響を与え、社会構造は個人に影響を及ぼす。よって個人の嗜好が激しく変化するポストフォーディズムの時代においては、経営環境のみで現実を解析するには限界があり、個人や組織関係からの考察が求められるからである。
 とりわけ注目される半導体というハイテク産業は、技術革新のスピードやライフサイクルの変化は極めて速く、市場の要求に合わせるべく、極めて資本、技術集約的産業であることから、かつてないほど国際間提携が頻繁に行われ国内、国際を問わず産業領域間ネットワーク(社会資本)が形成され易い領域であるという。特に女史はこの提携(ネットワークの形成過程)に関し台湾企業は元来地縁、血縁というインフォーマルな関係を元に企業間提携を行っていたが、ハイテク産業は極めてグローバルな活動を主軸とするが故に地縁、血縁に頼らないフォーマルなチャンネルを通し提携を模索していると述べ、その鍵は如何に相手国の文化、言語、法制度、商習慣、そして市場構造という文化ギャップを克服するかにあると指摘している。
 台湾の国際間半導体企業提携を考察する際注目に値するのは、1995年以前には米台間企業提携が大多数を占めていたにも関わらず、1996年以降においては日台間の提携、特に合弁企業が急増し始めたことである。その主要背景として、経済学的視野においては台湾企業が米国企業との提携を通し、技術的に安定した垂直分業生産システムを形成したことを受け、日本企業は「リスク分散」を目的に台湾企業へ生産を委託したと理解されている。一見企業提携においても、我々日本人から見れば、日台は比較的文化的差異が極めて小さく、提携や市場参入は容易だと考える傾向が強い。だが、女史の研究調査によると、思いに反して逆に日本文化を受け入れられない、或いは理解できないと答えたものが圧倒的であり、日台の文化的接続は思うほど容易ではなく、台湾政府高官は、日本の文化的参入障壁の高さとそれを克服できる人材育成が急務と答えるなど、私たち日本人の持ちがちな「日本文化の良き理解者台湾」は既に謬見であるという。

 よって、経営学的アプローチに加え、台湾企業が如何に日本という閉鎖的な文化障壁を乗り越えネットワークを築き、日本の産業へ参入したのかという多分にマクロ的な側面が解析されてこそ、今後の国際的に広がる企業間ネットワークの拡大をトレースする新たな組織分析アプローチが可能になるとの今後の研究要点が論じられた。また、質疑応答では参加者より、今後その文化ギャップを計量化することは可能か?そして、中台という文化的差異の小さい両者においては、ネットワークは日台と比べ何が違うのか等、計量と比較の要求がなされたが、まさにこれらの項目が新たに設定され相対化されることで、社会システムとしてのネットワークがより明確に見えてくるのではないだろうか。(東條雄隆記)