日本台湾学会台北定例研究会


 

第13回

日時 2002年12月27日(金)18:30-20:30
場所 国立台北師範学院 行政大楼506室(社会科教育系討論室)
(台北市大安区和平東路2段134号)
報告者 池上 寛 氏(アジア経済研究所/中央経済研究院経済学研究所)
コメンテーター 伊藤 信悟 氏(みずほ総合研究所/台湾経済研究院)
テーマ 「公営事業と90年代の民営化」
使用言語 日本語
参加費 無料

参加体験記
 日本台湾学会第13回台北定例研究会は、2002年12月27日国立台北師範大学にて開催された。まず、池上寛氏(アジア経済研究所/中央研究院経済研究所)から「公営事業と90年代の民営化」についての報告が行われ、続いてコメンテーターである伊藤信悟氏(みずほ総合研究所/台湾経済研究院)からのコメントが行われた。
 池上氏の報告では、台湾における公営事業の設立根拠と種類、センサスデータによる民間部門との比較、また経済の自由化、国際化などの流れにおける民営化の背景とそれに対する台湾の考え方などが紹介された。また、本来のタイムスケジュールに対して遅れを見せている民営化の現状、民営化の必要性など、台湾の公営事業の民営化への大まかな動きも説明され、今後の研究を継続するにあたっての問題点を挙げ締めくくられた。
 続いて、伊藤氏のコメントでは、公営事業に対する台湾独自の思想的背景にも触れる必要性があるのではないか、反封建主義・官僚資本主義の時代から近代化の過程において、公営企業はどのような捉えられ方をしているのか、また、サッチャリズム、レーガノミクスなどに代表される80年代の新保守主義の流れが、台湾においてどのように消化されたのか、という台湾の民営化における思想基盤との関連性に関する疑問が提示された。また同時に、今後民営化される企業に対しては、経済安全保障の枠組みの中でどのような役割を要求するのか、またこれらはファクターとしてどのような影響を与えるのか、民営化するにあたって各企業のガバナンスはどうであったか、政策目的に対する政府の介入はどうであったかなどの公営事業における経営側面からの疑問点が挙げられた。また、政治経済学的な見方をした場合には、この民営化プロセスにおける主要なアクターは誰なのか、全体としては、90年代における民営化がどのような意味あいを持っているのかという視点がありうるのではないかという意見も述べられ、今回の報告の全体的な感想として、パースペクティブが曖昧であるとの指摘がなされた。
これに続く討論においては、台湾の公営事業の民営化研究に対するいくつかのアプローチが提案され、主に、台湾のエスニシティの角度から公営事業の分析を試みるアプローチなどの検討も行われた。
 個人的に興味深かったのは、思想背景との関連性の部分であった。公営事業の民営化という問題を、世界的な潮流として捉えた場合、時期を遅らせこの潮流を受け入れる側にとって、民営化・自由化は一つの圧力であると捉えることができるであろう。と、同時に、この流れを拒否せざるを得ない政治経済的な理由なども存在し、2つの流れは軋轢として生じる。私はこれまで、個別の経済事情を考慮することはあっても、個別の「思想背景」を鑑みながら民営化を考えるという視点を持つことがなかった。公営企業という制度が存在する以上、それを支えるその地域特有の思想背景は当然存在するわけであり、決して見逃してはならないものなのではないだろうか。今回の研究会のテーマは民営化ではあったが、私自身このテーマをきっかけに様々な発想方法で思考をめぐらすことができた。恐らくそれぞれの研究分野においても、何らかの着想のヒントを共有できたのではないかと思う。(高橋良子記)