日本台湾学会台北定例研究会


 

第15回

 

日時 2003年3月7日(金) 18:30-20:30
場所 国立台北師範学院 行政大楼506室(社会科教育系討論室)
(台北市大安区和平東路二段134号)
報告者 山本 武利 氏(早稲田大学政治経済学部)
コメンテーター

劉 維開 氏(国立政治大学)

テーマ 「台湾をめぐる日米の諜報活動」
使用言語 日本語
参加費 無料



参加体験記
 2003年3月7日金曜日、国立台北師範学院において、第15回日本台湾学会台北定例研究会が開催された。今回の研究会では山本武利氏(早稲田大学政治経 済学部教授)より「最近のNational ArchivesのOSS資料公開の方向―台湾関連を中心に」と題した報告が行われた。


 山本氏による報告では、まず、第二次世界大戦中のOSS(The Office of Strategic Service、CIAの前身)の活動がアジアでは中国大陸の昆明、重慶、桂林、延安、上海などを中心としており、台湾や朝鮮、満州、日本には浸透しにく かったため台湾関連資料は多くないとした上で、従来公開されてきたOSS資料のうち台湾関連の文書について紹介した。これらのOSS史料にはインデックス が付けられており利用しやすく、史料概要は、ナショナル・アーカイブのローレンス・マクドナルド氏による「アメリカ国立公文書館のOSS資料ガイド」に示 されている。それによれば、OSS史料は既に95%まで公開されたとのことである。
 この史料は、2000年に公開が進んだが、その際にはobserverやinformantといった情報提供者レベルまでの工作員に関する情報が公開さ れた。それらの情報の中には、「日本人が(台湾)原住民を重視している」、「日本人は台湾に愛着を持っていない」、「Koreanは(台湾に)労働者とし て連れてこられ、日本人を嫌う」、「台湾内部にさまざまな民族的対立があるが反日ということになるとまとまる」などといった記述が残されている。こうした 情報は、開戦前まで台湾で働いていたアメリカ人技術者などから収集されたものである。他方、大型工作活動計画についても公開がなされ、「Oyster Project」と呼ばれる台湾上陸計画、また戦後の工作計画として日本における諜報活動計画が今回発見された。最後に、OSSの情報公開はその次の SSU(The Strategic Service Unit)までは進んだものの、CIAの情報は失敗した計画などが漏洩する以外には公開の見込みは全く無いとのことであった。

 続いて、今回のコメンテーターである国立政治大学教授劉維開氏からは、既に中国語訳も出ているOSS in CHINAという著作でも紹介されていないこと、特にOSS史料の中に台湾関連の情報があるとわかり、大変興味深いとのコメントがなされた。劉氏は更に第 二次世界大戦中に国民政府軍とアメリカによる1943年4月の協定により、1943年7月から中美合作社が発足し中米共同の諜報活動が行われていたことが 紹介した上で、今回山本氏が紹介したOSS資料の情報が中美合作社の活動で得られたものなのか、あるはアメリカ独自の活動によるものなのか、またOSSの 情報源は台湾内で傍受されたものなのかあるいは中国大陸で入手したものなのかとの質問がなされた。
 劉氏のコメントに対して山本氏は、OSS in CHINAは史料公開が95パーセントに至らぬ状態で公刊されたので、現在では同書に使用されていない史料が多数公開されているとし、また史料の性格につ いて、中美合作社の関係が1944年頃から悪化していたことを根拠にOSS史料はアメリカ独自の諜報活動によるものであろうと述べ、また情報源については 現段階ではどこで得られたものであるのかはっきりしないとした。傍受方法の可能性としてはOSS独自のラジオ傍受などがあげられた。

 今回の研究会に参加して、アメリカの諜報活動情報の更なる公開を期待すると共に、第二次世界大戦下の台湾がアメリカ側からどう認識されていたのか、また 戦時中のそれらの情報が戦後台湾、また日本に対するアメリカの介入にどう生かされたのだろうかという点に興味をもった。(渡部直子記)