日本台湾学会台北定例研究会


 

第17回

 

日時 2003年7月4日(金)18:30-20:30
場所 国立台北師範学院 行政大楼506室(社会科教育系討論室)
(台北市大安区和平東路2段134号)
報告者 佐藤 幸人 氏(アジア経済研究所)
テーマ 「台湾半導体産業のもうひとつの源流」
使用言語 日本語
参加費 無料



参加体験記
 第17回日本台湾学会台北定例研究会が2003年7月4日、台北師範学院で開催された。今回の研究会は台北定例研究会の発起人である佐藤幸人氏(アジア経 済研究所/中央研究院社会学研究所)が帰国されるのに伴い、佐藤氏本人による記念すべき講演となったこと、また、一連のSARS騒ぎ後初の研究会となった ことから、非常に貴重な研究会となった。報告内容は「台湾半導体産業のもうひとつの源流」で、報告は日本語で行われた。
 まず、報告にあたり、佐藤氏は予備知識としてテーマにもある「半導体」について、半導体をシリコン・IC(集積回路)との比較から説明され、その主要な3工程として設計→fabrication→組立という流れを説明した。
 そして、本研究の目的とアプローチの階層的構造として、目的を「台湾の経済発展のメカニズムを解明する。それは台湾の経験から教訓を引き出すこと、ある いは複製の可能性を探ることでもある」と述べ、特に電子産業を取り上げられたことについては「電子産業は経済発展の主役であったので、目的に照らして最適 の対象である」と述べている。また、アプローチについては基層部分としてB.ジェソップの理論を援用し、主体の自律性・戦略―關係アプローチ・偶発性の各 角度から台湾の半導体産業を分析し、直接用いるアプローチとして劉進慶、末廣昭、P.エバンズなどが提唱する「三者関係」理論、つまりその三者とは国家・ 外資・local capitalなのであるが、これらを取り上げ、さらに、既存のアプローチに対する修正=理論的インプリケーションとして焦点の所在・「社会」・国家につ いてそれぞれ言及した。そして、台湾の半導体産業については「三者関係」理論のうちのlocal capital、佐藤氏の理論では「社会」が主役なのではないかと述べた。
 次に、研究全体の構想として台湾電子産業の発展過程の総合的な理解と称し、1960年代を内向きの島内市場と外向きの安い労働力を生かした輸出の時代と 位置づけ、それらが現在のPC産業及びIC産業に発展する過程において、1970年前後に興った新興企業の存在を一つのポイントに据えられた。そして、半 導体産業においては、その時期に次々と興った新興企業が現在のIC産業に発展するまでの課程で、過去の研究、特に国家理論アプローチでは政府の役割ばかり が強調されることが多かったが、実はそれにもう一つ、豊富な知識と経験を持ったマンパワーの存在をも重視する必要があるのではないかと述べた。
 続けて、台湾電子産業の挑戦と挫折と銘打って、環宇・萬邦・三愛などの新興企業を事例にその挑戦と挫折を個々に紹介し、そこからどのように国家プロジェ クトに結びついていったのかを証明した。また、その国家プロジェクトについては企画の過程でどのような偶然性が潜んでいたのか、また、計画に参加した人た ちの背景と動機についても大きく4つのパターンに分けて紹介した。

 今回の佐藤氏の発表で興味深かったのは、工業技術研究院(工研院)の創立、そこでの先端技術の研究開発、民間企業への技術移転、及び人材の育成などが 1980年代以降台湾の半導体産業が発達していくうえで重要な要因として挙げられていたことである。私自身もそれらが台湾半導体産業の発展経路のもう一つ の源流であったのではないかという佐藤氏の意見に賛成である。(劉慶瑞記)