日本台湾学会台北定例研究会


 

第19回

 

日時 2003年9月26日(金) 18:30-20:30
場所 国立台北師範学院 行政大楼506室(社会科教育系討論室)
(台北市大安区和平東路2段134号)
報告者 林 崇熙 氏(国立雲林科技大學文化資産研究所教授兼所長)
コメンテーター 氾 燕秋 氏(国立臺灣科技大學人文学科助理教授)
テーマ 超越統獨與派閥――社區営造的一個可能性」
(「統独や地方派系を超えて―コミュニティー創造運動の一可能性」)
使用言語 北京語



参加体験記
 9月26日、台北師範学院で日本台湾学会第19回台北定例会が雲南科技大学教授の林崇熙により『統独や地方派系を超えて-コミュニティー創造運動の一可能性』のテーマで行われた。
 まず林教授は問題提起として台湾が現在抱えている社会構造の矛盾を指摘した。台湾は高度成長を遂げ、アジアでも有数の工業国家へと発展した。しかし発展に伴い都市に人口が集中し、農村の過疎化が進行し、伝統的社会関係が崩壊しつつある。また国内市場は国営企業が壟断し、中小企業は国外に発展を求め、台湾の発展は自分達の故郷、文化、環境の保護などにあまり関心を持たず、経済発展したものの、文化的には非常に貧困な発展だったことを説明した。
 このようないびつな社会構造をどのように改善させるか、従来の政府主導の開発では中央政府と地方派閥の癒着や利権政治がはびこり、住民軽視の開発が行われていた。こうした政府主導の開発から脱却し、教授が自分の故郷のコミュニティー建設に参与した経験を基に、市民主導の改革の可能性を提唱した。今回の研究の対象地となった場所は林教授の故郷で、再開発以前は台湾の他の都市と同様、看板が乱立し、規律が全く無い景観だった。そのため乱立した看板を撤去し、商店街共通の看板を使用するなど、街道の景観を改良することを提案した。
 当初、住民は景観の改善などに大きな関心を持っていなかったが、住民間の話し合い、都市の景観を改善した街を参観することによって、住民たちの問題意識を徐々に共有でき、計画が軌道に乗り始めた。しかし921地震が起き、この地震の結果、予算も削減され、計画は一時頓挫してしまった。だが921地震を経て、街をどのように再建させるのか、住民達の関心が高まり、住民間でどのように商店街を再建するのか話し合いをし、地震の再建のため、倒壊した住居の撤去、改修を行い、再開発を推し進めた。
 商店街の改修が終了後、道路も舗装し直し、商店街の景観を一新させ、伝統的建築物を生かした景観へと改良した。その後も商店街で定期的に講演会、演劇など様々なイベントなどを主催し、住民間のコミュニケーションを活発化し、商店街そのもの活気も活性化させる結果となった。 このように活発化させたコミュニティー建設を通して、住民主体の開発の可能性を述べた。
 討論では、今回のテーマ名である『統独や地方派系を超えて』と、発表の主な内容だった民間主導による町おこしについて、主題と、実際のテーマとは少しずれがあるのではないのだろうかと質問された。それに対して、林教授は今回のテーマ名には現在の台湾政治は統独問題のみが強調されがちで、住民たちに密接な問題が軽視されている現状を再び説明し、イデオロギー的な政治論争から脱却し、より現実的な問題を解決の重要性を強調する意味で、このテーマ名の目的があると返答した。
 今回は成功したコミュニティー建設を例に発表されたが、私は以前台湾中部郊外の街での民間主導によるコミュニティー建設を見学したことがある。しかしこのコミュニティーのプロジェクトは結果的には住民の方向性の違いから、激しい対立を引き起こし、新しいコミュニティーを建設するどころか、その土地の人間関係を破壊する結果になってしまった。各地それぞれ特色が異なるため、今回の成功例をそのまま、そのまま他の地区に応用することは難しいと思う。しかし私自身、2年近く台湾に住んでいて、林教授が指摘したような無規律な都市の発展には少しうんざりしている為、こうしたコミュニティー再建がより住民主体の都市の開発への変化へと促せば、幸いだと思う。(水野真言記)