日本台湾学会台北定例研究会


 

第25回

 

日時 2004年9月3日(金) 18:00-20:00
場所 国立台北師範学院 行政大楼506室(社会科教育系討論室)
報告者 松金 公正 氏(宇都宮大学国際学部)
コメンテーター 黄 自進 氏(中央研究院近代史研究所)
テーマ 「日台学術交流における『留学』と『研究』-大学間国際学術交流協定と日台交流センターの
研究支援事業」
使用言語 報告は日本語、コメントは北京語
参加費 無料



参加体験記
 9月に入ったものの気温はまだ30度以上という「初秋」の匂いのなか、9月3日に第25回台北定例研究会が31人の参加を得て国立台北師範学院で開催された。

 まず、松金公正氏(宇都宮大学国際学部)から「日台学術交流における「留学」と「研究」-大学間国際学術交流協定と日台交流センターの研究支援事業」と題する報告が行われ、続いて黄自進氏(中央研究院近代史研究所)からのコメントがあった。
 松金氏の報告では、まず「留学」の側面から、アジアとの「共生」・「協働」という概念が日本の留学政策を構想するうえで重要であること、台湾における日本人留学生及び各国留学生の受け入れ、台湾留学のための奨学金制度、大学の国際化と交流協定、交換留学などの学術交流に対する支援の可能性などについて所論が述べられた。そしてもうひとつの「研究」からみた学術交流については、財団法人交流協会日台交流センターの設置、歴史研究者交流事業、データベースの公開などの状況が説明された。また日台双方の「歴史」を通じた相互交流が蓄積された今、台湾を語れる日本人と日本を語ることができる台湾人若手研究者の育成や歴史研究者交流事業を超えた新たな研究支援策の必要性、日本による台湾への研究支援策を今後続けるにあたっての課題なども提示された。

 続いて黄自進氏は、2004年度から台湾の教育部(日本の文部科学省に相当)が「台湾奨学金」の内容を拡大し、外国人留学生を広く招こうとする意図が明らかになっていると説明した。留学・学術交流に関しては、特に台湾における留日人材の減少傾向が懸念されるとし、一例として、中央研究院の全研究員約 800人のうち留米が500人以上を数える一方、留学先としては第二位の英国は30人前後にとどまり、留日も20数人を数えるのみとなっていることをあげた。こうした現象を台湾の政府はどのように考えるのか、また状況の改善のためにはどのような政策が必要なのか、また同時に、財団法人交流協会日台交流センターに対しては、「研究的」学術交流の枠組みを日台間でどのように機能させていくべきなのかといった問いが示された。
 これに続く討論においては、台湾の学術国際化に対するいくつかのアプローチが提案され、主に日台双方の留学、研究機構、支援団体等のさまざまな角度から学術交流の発展の可能性が議論された。
 なお席上、松金氏より『台湾における日本研究』(財団法人交流協会、2003年3月発行)が希望者に頒布された。同書において著者の川島真氏(北海道大学法学研究科教授)は、台湾での日本研究に関する著作・論文・書誌等の情報を収集し、さらに解説を加えて文献目録の形で整理している。この調査報告では、台湾における日本研究の動向や問題点および将来の課題など、幾つかの重要かつ有益な視点が提示されている。

 全体の議論を通して個人的にとくに興味深かったのは、留日人材または「知日的」人材の必要性に関わる部分であった。留日人材または知日人材の質と数を確保するために、日台間の学術交流事業をより緊密なものにし、双方が連携して台湾の学術水準をより一層高めていかなければならない。「台湾学」の研究は、台湾自身や1998年に日本台湾学会が設立された日本をはじめとして、世界各地でもさかんになっている。日本台湾学会の規約にもあるように、学際的な(interdisciplinary)地域研究(area studies)としての台湾研究(Taiwan studies)を志向する研究者が相互交流と協力を図り,研究資源の有効利用を進めることを通じて、台湾研究の充実・発展に努めていく必要がある。台湾と日本(あるいはそれ以外の土地)を股にかける留日人材または知日人材が今後果たすべき役割もまた大きいと言えるだろう。
 一方で、台湾における日本学・日本研究に関する研究団体あるいは研究センターということで言えば、台湾大学に付属する日本研究センターや民間の台湾日本綜合研究所等、多くの組織は設立されているものの、たとえば日本台湾学会に相当するような、学術研究を目的とする「台湾日本学会」とでもいった団体は、現在に至るまで日の目を見ていない。
 今回の定例会の報告・討論から私自身触発されるところも多く、さまざまに思考をめぐらすことができた。松金氏と黄氏および参加された方々に感謝したい。(徐年生記)