日本台湾学会台北定例研究会
第30回
日時 | 2005年5月21日(土) 17:00-19:00 |
場所 | 国立台北師範学院 行政大楼506室(社会科教育系討論室) |
報告者 | 柳本 通彦 氏(ノンフィクション作家、アジアプレス台北オフィス代表) |
テーマ | 「台湾原住民-日本を背負い続ける人びと」 |
使用言語 | 日本語 |
参加体験記
5月21日、台北師範学院において第30回例会がおこなわれた。今回はノンフィクションライターである柳本通彦氏による講演(「台湾原住民―日本を背負い続ける人びと」)で、コメンテーターは特に置かれなかった。
講演ではまず、来台(1987.3)当時のエピソードやその後の台湾での取材活動など、柳本氏と台湾原住民との出会いから今日までの経緯が簡単に説明さ れたあと、本日の主題である、「この二十年の間に出会った台湾原住民のお年寄たちの素顔」がビデオやスライドを通して紹介された。
そこでは、南投県霧社や花蓮県寿村などでの「過去」の出来事、そしてそれから七十年、八十年と同じ場所に歴史を乗り越えて生き続けてきた「おじいちゃん、おばあちゃん」の「現在」が映像テクストとともに伝えられた。
植民地統治時代の出来事が色あせた史実ではなく、生々しくいまも息づいていることを、聞く者に訴えるものであったといえる。たとえば、出生からいつも一 緒だったという仲良し三人組のエピソード。そこで紹介されたおばあちゃんたちの写真を見、日常の暮らしや日本旅行の話を聞いていると、みなさん「現在」の 幸せを満喫されているかのように思える。だがこうした「勝手な空想」は、戦中の「兵舎への監禁」体験について重い口が開かれると同時に、脆くも打ち砕かれ る。柳本氏が掘り起こした彼女たちの青春の過酷な記憶は、決して癒されることも、何かと折り合いがつけられるものでもなく、おばあちゃんたちが異民族統治 や戦争の傷痕をいまなお生身のまま背負い続けていることが教えられる。
柳本氏は、こうした出来事を歴史的事実としてだけでなく、現代台湾の現在進行形の問題として我々の前に提示する。一方、氏は、「被害者」として彼らを 「同情の対象」に貶めることを拒否する。彼らはいかなる時代にも、いかなる事態に遭遇しようとも、民族の尊厳を守って凛として生きてこられた。氏が多くの スライドを駆使して「台湾原住民のおじいちゃん、おばあちゃん」の様々なありようを紹介したのも、その誰からも領有されないその存在そのものを尊重するが ゆえでの選択であったと思われる。
ただ筆者にとって残念だったのは、機器の不具合によりビデオ上映が中断され、幾人かの「おじいちゃん、おばあちゃん」との出会が閉じられてしまったことである。また、柳本氏にも言い尽くせない部分ができたかもしれない。 (武久康高記)