日本台湾学会台北定例研究会


 

第34回

 

 

日時 2005年11月19日(土) 15:00開始
場所 国立台北教育大学(旧・国立台北師範学院)
行政大楼506室(社会科教育系討論室)
(台北市大安区和平東路2段134号)
報告者 若畑 省二 氏(国立政治大学国際関係中心)
テーマ 「韓国・台湾の現代政治比較についての一考察―民主化の「延長戦」?」
使用言語 日本語



参加体験記

 11月19日、国立台北教育大学にて第三十四回台北定例会がひらかれた。報告者は若畑省二氏(政治大学国際関係中心)で、「韓国・台湾の現代政治比較についての一考察-民主化の「延長戦」?」と題する報告が行われた。報告者は韓国政治研究者であり、韓国語・中国語力を生かした発表であった。
 本報告では、台湾を過度に注目するのではなく、比較政治の手法である類似した二国間、つまり、韓国と比較することで一般的モデル化し、台湾の民主化への理解をうながすことがめざされ、韓国・台湾の共通点と相違点の事例をとりあげて報告が進められた。韓国・台湾はともに戦後、急速な経済成長をとげたものの、相違点は、韓国は軍事独裁である点にたいし、台湾において軍は限定的であり、国民党の一党支配が大きかった点をあげた。これは民主化の過程に影響を及ぼした。韓国は1987年が分水嶺であるのにたいし、台湾は1988年の野党結成から1996年の総統選挙という段階的民主化だった。また、韓国は 1987年の激しい民主化体制にたいし、台湾は上から渋々と段階的に民主化が進められた。両者の共通点は政権が維持された点である。では民主化の過程でどういう争点が浮上したのか。韓国は学生運動、つまり反米的民族自決、米国から脱却しての民族化がはかられた。それにたいし台湾は台湾人のための台湾化の要求であり、エスニックな要求と結びつくものだった。そして韓国・台湾に共通した民主化後の政治過程について次があげられた。1、政権の維持、優位政党体制への模索、2、権威主義体制勢力の分裂、3、旧勢力の団結、反発、4、イデオロギー的な二極的対立、である。

 また、権力側内部の穏健派と民主化運動側の穏健派が結びつくことで民主化が達成されるとした。台湾の場合は李登輝に代表される穏健派と、許信良らとが同盟を結ぶことで手続き的民主化が進められた。それに対し、韓国は1987年に憲法改正して大統領選挙が可能となり、盧泰愚が選出される。台湾は李登輝がリードし、1996年に勝利し、そのまま政権を維持した。だが、韓国・台湾とも、権威主義体制が分裂、つまり、台湾の場合は新党、親民党、そして台聯へと分裂し、安定しなかった。そして与野党の政権交代において民主化運動で主流でないものが当選した。韓国の場合は1997年金大中、2002年の盧武鉉であり、対して台湾は2000、2004年の陳水扁がそれにあたる。

 政治的対立軸として次の特徴があげられた。韓国は財閥を解体し、巨大既得権のメディアを分解、そして北朝鮮との対話を通して国民国家化をはかろうとした。台湾は形式的民主化にとどまらない台湾化を進め、国際的空間の拡大をはかろうとした。両者の分断(韓国の北朝鮮との対話、中国と一体でなく区別された台湾)、周辺大国との関係(韓国は裏には米国があり、日本は旧政権を擁護。台湾は、米国と日本への期待。これを通して中国を牽制し、台湾の国際的空間の拡大をはかる)、近現代史に対する認識(韓国は植民地支配の清算。台湾は植民地支配への評価。)という、国際的立場、分断国家との力関係の違い、民主化過程の違いが、政治的対立軸の方向性の相違、国内的な政治的対立軸の相違となった、と指摘された。

 最後に、本報告で得られた知見として民主化後の政治過程についての時系列的類型化、政治勢力間の相互作用への注目、そして政治制度分析の重要性があげられた。

 そして本報告にたいし、主に次の質問がなされた。民主化が達成したあと、延長戦があった、とあるが、延長しなかった国があるのか、優位政党体制構築の失敗とあるが、旧勢力、つまり地方派系が強かったのでは?、台湾における学生運動世代とはどの世代?、などである。

 本定例会に参加して、ある地域のある時代にだけついて注目するだけでなく、同時代的に他の地域を見た場合、同じ現象があるのではないか、また、ある地域の現象を一般化できるのではないか、という視点をえることができ、参考になったと思う。(森田健嗣記)