日本台湾学会台北定例研究会


 

第41回

 

日時 2007年2月3日(土) 15:00開始
場所 国立台北教育大学(旧・国立台北師範学院) 行政大楼506室(社会科教育系討論室)
(台北市大安区和平東路2段134号)
報告者 佐藤 幸人 氏(アジア経済研究所)
テーマ 「中国コンビニエンスストア事業における戦略の選択―セブンイレブンとファミリーマート―」
使用言語 日本語
参加費 無料



参加体験記
 2007年2月3日午後3時より台北教育大学において第41回台北定例研究会が行われた。報告者はアジア経済研究所の佐藤幸人氏であり、コメンテーターは特に置かれず、参加者は8名であった。報告および質疑応答は日本語で行われた。

 報告は、「中国に於けるコンビニエンスストア・チェーンの戦略選択 セブンイレブンとファミリーマート」と題し、行われた。2004年、セブンイレブン・ジャパンとファミリーマートが中国の北京と上海に進出した際に、それぞれが対照的な戦略を選択した。ファミリーマートの戦略は、子会社の台湾ファミリーマートが上海ファミリーマートの経営に積極的に参与していること、上海ファミリーマートが伊藤忠・ファミリーマート・グループと地場資本の頂新グループの合弁会社であること、という二点からチーム経営戦略と呼べる。一方、セブンイレブン・ジャパンの戦略は、セブンイレブン北京はセブンイレブン・ジャパンと地場資本の合弁だが地場資本は経営に関与していないことから単独経営戦略といえる。このような異なる戦略の選択理由を検討すること、同時に異なる戦略が持つ効果も考慮することが研究の目的である。
 この研究は、この戦略選択の決定過程を進化論アプローチに基づきなら検討している。この進化論アプローチの利点は、(1)選ばれなかった選択肢(2)偶発性(「怪我の功名」)(3)企業家精神など眼に見えない要素を考慮に入れることが出来る点である。また戦略とは従前に蓄積された資源に大きく依存し、資源のうち重要なのは経験および経験から抽出された知識であると考える。
 合理主義的に対抗仮説を立てれば、規模の大きいセブンイレブン・ジャパンは単独経営戦略を選択し、比較的規模の小さいファミリーマートはチーム経営戦略を選択したという規模の違いに基づく合理的な選択となるが、この研究ではそれは不十分と考える。というのは、規模が大きいことは単独経営を容易にするがチーム経営を排除する理由にはならない、また規模が小さいことは単独経営を困難にするがチーム経営を容易にするわけではない、からである。この点が、合理主義に基づいた規模仮説の限界である。
 それに対し、進化論アプローチから仮説を立てれば、ファミリーマートのチーム経営戦略は、過去の海外経営の経験に基づき、チーム経営戦略の有効性を認識していたこと、また、台湾子会社が持つ経験を活用する事が出来たことを理由に選択された。また、セブンイレブン・ジャパンの単独経営戦略は、海外経営の経験の欠如と、国内での華々しい成功経験を理由に選択された、といえる。
 現在までのところ、二つの戦略は次のような効果をもたらしている。上海ファミリーマートの事業モデルはやや折衷的であり、理想的モデルとはいえないが、台湾ファミリーマートが持つ言語などの文化的資源、台湾ファミリーマートを立ち上げた経験を持つ人的資源を利用することによって事業の立ち上げ、拡張の速度を速めることができた。一方、セブンイレブン北京は、立ち上げに時間がかかっているが、より革新的な事業モデルを構築できる可能性がある。そして、セブンイレブン・ジャパンは北京において、日本で構築した事業モデルの一般性を実験し、セブンイレブン・チェーンのグローバル・スタンダードを見つけ出そうとしている。
 インプリケーションとしては、これまでの直接投資研究が一方的な影響に着目してきたのに対し、この研究の事例は、多国籍企業の子会社による知識の創造と、知識の多方向的な流れを示すものであり、そこには第三次産業の知識の特性があるとした。
 質疑応答では、日本・台湾・中国のコンビニエンスストアの相違点に関する質問、セブンイレブン北京の事業モデルは現地の状況を踏まえていないだけではないか、台湾でセブンイレブンを展開する統一グループに関する質問やコンビニに付きまとう日本的なものとはなにか、など活発に議論が行われた。

 今回の報告での私個人の感想としては、台湾・日本で何気なく利用していたコンビニエンスストアの実情を知り、身近な事こそ気付きにくいという事実を考えさせられたこと、また合理主義的な説明が持つ限界への指摘、戦略の選択がもつ偶発性や資源の中にこれまでの経験を含めるという考え方は歴史を専攻する私にとっても重要な考え方ではないかと思ったことである。(安達信裕記)