日本台湾学会台北定例研究会


 

第58回

 

日時 2011年10月8日(土) 15:00開始
場所 淡江大学台北キャンパス D303(台北市金華街199巷5號)
報告者 林 冠汝 氏(真理大学財経学院助理教授)
テーマ 「台湾債券型ファンド分流政策実施以降のファンド産業の動向
―証券投資会社の経営実績と対応策を見る―」
コメンテーター 鄭 力軒 氏(国立中山大学社会学系助理教授)
使用言語 日本語、北京語

 

参加体験記
 2010年10月8日午後3時から、淡江大学台北キャンパスD303室にて、日本台湾学会第58回台北定例研究会が開催された。報告者は真理大学財経学院助理教授、林冠汝氏、コメンテーターは国立中山大学社会学系助理教授、鄭力軒氏、参加者は計7名であった。参加者は多くなかったものの、報告の後、活発な意見の交換がなされ、また、台湾の金融政策にあまり詳しくない日本人参加者のために、林氏が教壇に立ちホワイトボードを使ってさらに詳しい説明を行ったり質問に答えたりするなど、和気あいあいとした雰囲気の中、6時近くまで討論が行われた。
 林氏の報告「台湾債券型ファンド分流政策実施以降のファンド産業の動向―証券投資会社の経営実績と対応策を見る―」の概要*は以下の通りである。
 2004年に聯合投資信託会社事件が発生したのを契機として、台湾政府は債券型ファンドに対する改善策を導入し、また、2005年に債券型分流政策を実施した。分流政策実施以降、債券型ファンドへの投資家が著しく減少したため、証券投資会社の営業収入も大幅に減少した。加えて、証券投資会社は仕組み債の処分に係わる損失の負担が大きかったので、証券投資会社に経営危機が発生した。しかし、証券投資会社は積極的に適切な対応策を採用して、この経営危機を乗り越えてきた。また、近年、証券投資会社は債券型ファンドからの営業収入が減少しても、かわりに、運用管理費用率の高い株式型ファンドと外国投資商品運用型ファンドからの営業収入を増加させており、全体の営業収入に大きな影響を与えない仕組みを構築している。そのため、2010年12月に分流政策転換期終了を迎えても、分流政策実施の証券会社の経営実績に与える影響が緩和できたのである。
 分流政策実施以降、証券投資信託協会の統計によると、2011年8月までに、準短期金融市場型ファンドから転換された短期金融市場型ファンド基金額の全ファンド基金額に対する比率(38.42%)は他のファンドの構成比率を超えて、株式型ファンド(35.78%)と並んでいる。また、調査対象会社のうち、ほとんどの会社では、短期金融市場型ファンドが会社での重要な営業項目になっている。その理由では、短期金融市場型ファンドは安定性と流動性の高くかつ普通預金金利より高い収益率を持つという性格をもっているので、短期投資目的な法人投資家に好まれている。加えて、国内•外株式市場が低迷する時期になると、短期金融市場型ファンド市場が投資家にとって短期的な資金を扱う場所になる。そのため、短期金融市場型ファンドのニーズは市場に存続し続ける。しかし、現在では、国内での金利が低い状態を続けているので、国内投資商品運用型ファンドの収益率が上昇しにくい。国内投資家にとっては国内投資商品運用型ファンドの魅力がなくなり、かわりに、高収益率である株式型ファンドや外国投資商品運用型ファンドに対する興味が深くなっている。将来、高収益率で運用管理費用率の高い株式型ファンドと外国投資商品運用型ファンドが証券投資会社にとって、重要な営業項目となり、重要な営業収入ともなるであろう。これに対して、短期金融市場型ファンドの重要性が減少していく可能性が高いと考えられる。
 また、現在では、台湾国内では低金利の状態が続いている上、ファンドの方が、小口資金から運用可能、かつ、株式より変動リスクが小さく、収益率が銀行普通預金より高いなどのメリットがある等の理由で、保守的かつ短期的な投資家に好まれている。以上の事情により、外国投資商品運用型ファンドの拡大などとともに、ファンド産業の発展は今後も続くのではないだろうか。ただし、政府はファンドの国際化グローバル化を進展させるため、上述した課題に対し積極的に改善措置をとるべきであろう。加えて、法令と制度のグローバル化、金融市場での商品多様化と規模拡大、証券投資会社の経営の合理化、大型化、行政の効率化、外資を導入する環境の改善などを推進すべきであろう。さらに、ファンド業界は自社の競争力を強化し、経営実績を向上するために、経営の合理化、効率化、大型化を促進し、投資商品におけるリスクの管理を強化してファンドの収益率を向上させ、また、収益率のより高い、特徴的で、潜在力のある新ファンドを積極的に導入し、またグローバル化に対して、国際金融市場の人材の育成と在職員の教育を強化をすべきであろう。
 以上の報告に対し、コメンテーターの鄭氏からは以下のコメントがなされた。本論文では、証券投資会社に関する経営実績と対応策の二つのポイントが議論されており、それぞれさらに詳しく研究することで、二つの論文にしてもいいのではないか。金融機関の経営実績は、金融政策の変化よりもリーマンショックなど世界経済の動向に左右される場合が多いため、個々のファンドの歴年の成長率の分析のみでは不十分であり、外国のファンド産業や他の産業の実績と比較する方が適切であろう。債券型ファンドに関しては、89件から50件に減少した原因をさらに詳しく分析すること必要があろう。また、鄭氏からの質問としては、台湾の社債市場の規模はどうなっているか、2004年に発生した債券型ファンド産業の経営危機に対し、政府は改善策を行ったが、ファァンド業界はその政策にどのような経営方式で応じているのか、などが挙げられた。
 一方、フロアーからの質問やコメントとしては、証券投資会社へのヒアリング結果は、本土系と外資系に分けるべきではないか、仕組み社債と転換社債などの金融商品は証券投資会社にとってどのような特別な意義があるか、政府が規定した政策は与党が変わると内容が変わってしまわないか、金融政策も政治の影響を受けるのではないか、などが提起された。
 筆者は、正直申し上げ、金融分野にはあまり関心がなかったが、今回は林氏の友人として応援するつもりで参加した。結果、学ぶところが大変多く、わずかではあるが新たな視野を広げる貴重な経験をいただいた。自分の専門分野と異なる台湾研究分野に対しても積極的に学ぶ姿勢を持つ大切さを、改めて実感した次第である。林氏の発表は、金融分野の研究発表がまだ数少ない日本台湾学会において貴重なものであり、林氏の研究の今後ますますの発展が期待される。(佐藤和美記)
*注記:報告の概要部分は、林氏提供の報告要旨による。林氏に記して感謝申しあげる。