日本台湾学会台北定例研究会


 

第70回

 

日時 2015年9月19日(土) 15:00開始
場所 国立台北教育大学行政大楼A605室
報告者 湊 照宏 氏(大阪産業大学経済学部)
コメンテーター 洪 紹洋 氏(国立陽明大学人文与社会教育中心)
テーマ 「1950年代の台湾電力公司と米国援助」
使用言語 日本語

参加体験記

 2015年9月19日に第70回定例研究会が国立台北教育大学で開催された。大阪産業大学の湊照宏氏が「1950年代の台湾電力公司と米国援助」と題して報告をおこなった。コメンテーターは洪紹洋氏(国立陽明大学)、参加者は12名だった。
 本報告は、1950年代における台湾電力公司と米国援助機関の関わりを、債務償還計画およびこれと不可分の関係にあった電気料金値上げ問題から分析するものである。台湾の米援研究においてはマクロ経済からの分析が中心であったのに対し、被援助企業に着目する点に本研究の特徴がある。報告では、米国のECAが対外援助を実施した時期、およびMSAが実施した時期に区分して検討された。
 ECA時期、朝鮮戦争以前の1950会計年度においては新竹変電所の拡張を始めとする150万ドルの援助、1951会計年度においては、天冷水力開発を含む374万ドル余りの援助が決定された。しかし、1951会計年度における物資調達に際して、見積もりの甘さや日本や米国におけるインフレの影響から予算額が二倍超となった。なお、この時期の物資調達は、相対的高価であったにもかかわらず、納期の短さから日本への発注も少なくなかった。台湾電力公司は電源開発計画予算の膨張による債務急増を背景に1951年度に社債を発行、返済に充てるため、1952年度より電気料金の値上げを検討するも、これは実行されなかった。
 この状況が引き継がれたMSA時期からは、台湾電力公司に対する援助は複数年度にまたがる大規模なものとなり、各地に新設の火力および水力発電所の設立が計画された。この計画は予算オーバーから当初の計画通りとはいかなかったが、多額の借入金返済のためには電気料金改定は不可避であった。電気料金は1953年より32パーセント値上げがなされ、増収分は返済に回されたほか、また台湾電力公司から政府が受け取る法人税および配当金は元利金償還にあてられた。このように、台湾電力公司の利益処分に対しては厳格な管理がなされていた。また、1954年からは台湾電力公司の資産額が再評価されたことによる固定資産増加と、その減価償却費用の増大に対応するため、再度の電気料金値上げが計画され、1955年から実施された。これ以後、米国議会の対外援助執行の厳格化にともない、CUSA(米国援助運用委員会)から継続的に電気料金値上げ要求を受けることとなった。
 以上のように、台湾電力公司は電力開発のために米国の援助を受け、他方で米国援助機関は台湾電力公司に債務返済に充当させるための電気料金値上げを求める、という関係にあったのである。
 なお、本報告の内容は、堀和生編『東アジア高度成長の歴史的起源』京都大学学術出版会(2016年11月刊行)の第2章に収録されている。(鶴園裕基記)