日本台湾学会台北定例研究会


 

第72回

 

日時 2015年3月5日(土) 15:00開始
場所 国立台湾大学台湾文学研究所
報告者 清水 美里 氏(日本学術振興会特別研究員(PD)、東京外国語大学・早稲田大学非常勤講師)
コメンテーター 郭 雲萍 氏(開南大学観光与餐飲旅館学系)
テーマ 「嘉南大圳の『公共』性と暴力の併存」
使用言語 日本語



参加体験記
 2016年3月5日、台湾大学台湾文学研究所会議室で第72回台北例会が行われた。報告者は清水美里氏(日本学術振興会特別研究員(PD)、東京外国語大学・早稲田大学非常勤講師)で報告タイトルは「嘉南大圳の『公共』性と暴力の併存」である。コメンテーターはやはり嘉南大圳などの研究に取り組んできた郭雲萍氏(開南大学観光与餐飲旅館学系)、参加者は10名だった。
 報告された内容を概略すれば以下の通りである。「はじめに」では、公共埤圳組合であった嘉南大圳組合を事例にして、植民地「公共」性について検討することが示され、関連する先行研究が紹介された。「1.嘉南大圳とは」で三年輪作制が紹介され、「2.嘉南大圳組合の運営」では、水利組合に議決権はなかったが公共埤圳組合には議決権があったこと、また、水利組合に小作人は加入できなかったが公共埤圳組合には小作人も加入できたこと、といった特徴を指摘しつつ、地方役所と連結した水租徴収などの組織運営が図で以って説明された。「3.監視員の記録からみる農民の反応」においては、1930年代初頭は低かった三年輪作制の実行率が中頃にかけて上昇するものの、水稲の90%という成果に対して甘蔗は70%程度で頭打ちになっていたというデータが紹介された。「4.組合会の機能を骨抜きにする動き」、「5.組合会の機能を活発化させる動き」では、水租負担に対する組合員の不満が総会の混乱を招いていた状況が紹介され、そうした混乱を封じるような、非日本語話者を排斥する1932年の組合会議員選挙規定改訂が指摘された。農作地現場で生じた混乱については、甘蔗作付けを可能にする強引なヒースプラウ土地改良に反発する小作農が警察からの取り調べを受けるに至った事件が「6.暴力の発動」で紹介された。「おわりに」では、駒込武氏が提起した公共性をめぐるpublicとofficialの違いにふれ、嘉南大圳については「公共」のofficial 化を図る日本植民地権力と、「公共」のpublic化を図る台湾知識人という構図がみうけられる、というまとめがなされた。
 以上の報告に対して、コメンテーターからは、もともと私有性の強かった状態から「公共」性が付与される状態に移行した桃園埤圳などとの差異性が指摘されたうえで、(1)「暴力」と称される事象、(2)三年輪作制の具体的実施過程における複雑性、(3)実質的資金負担に関する地域的多寡(国家の「暴力」に対する抵抗の地域的多様性)に関連するコメントがなされた。報告者からは、(1)農民ではなく製糖会社の側に立つ官憲の事例も「暴力」としてとらえうること、(2)多様性のある地域に画一的な制度を導入したことによる運用システムの不安定性、(3)収益減少時において水租負担が実質的に高まる区域の存在、といったリプライがなされた。参加者からは、三年輪作制実行率が低い時期の土地の使われ方、水租の実質的負担者(地主か小作農か)、組合会議員の社会経済的背景、「公共」や「暴力」の概念、に関する質問が相次ぎ、活発な質疑応答となった。
 体験記筆者は報告者による10年近く前の初々しい研究報告を聴いたことがある。報告者はその時から地道に現地調査を重ね、着実に研究成果を積み上げ、2015年には『帝国日本の「開発」と植民地台湾』(有志社)を出版された。その路程を着実かつ忍耐強く歩んだ姿に、敬意を表せざるを得ない。研究会終了後は、報告者とコメンテーターを囲む有志参加の食事会となり、台湾に留学している大学院生とも楽しく交流できた。彼らが学会で活躍するであろう10年後も、台北定例研究会が活発で自由に議論できる場として機能し続けていることを願う。(湊照宏 記)