日本台湾学会台北定例研究会


 

第86回

日時 2021年9月17日(金) 15時開始
場所 国立台北教育大学A605
報告者 三代川夏子氏(東京大学博士課程、国立政治大学訪問学者)
テーマ 「冷戦期自民党議員外交と日台間チャネル」
コメンテーター 徐浤馨氏(淡江大学日本政経研究所)
使用言語 日本語
参加人数 8人

活動報告

 三代川氏の報告は、1972年の断交をまたぐ冷戦期の日台間の外交関係において、おもに自民党議員がになった非公式チャネルに注目したものだった。国交がある時期には公式の外交ルートが存在していたにもかかわらず、台湾側は日本との関係が深い張群が中心となって自民党のいわゆる親台湾派議員などへのはたらきかけを積極的におこない、また断交後も交流協会と亜東関係協会が設立されたものの、日台双方で交渉アクターが安定しなかった。それゆえ、冷戦期には一貫して議員外交が活発だったという。

 70年代には自民党内の派閥抗争がはげしくなるが、三代川氏は各派閥あるいは日華関係議員懇談会や青嵐会といった議員集団の動向や、それらに対する台湾側の見方なども詳細に分析した。外交問題にかんして派閥が議員の行動に介入する余地はそれほど大きなものだったとは言えず、個々の判断によって議員外交が展開していた側面も大きかったようである。80年代には親台派と親中派の融合も見てとれるという。

 徐氏からは、三代川氏の視角や資料収集に対して高い評価が与えられるとともに、各期の台湾側政府を論述の際にどのように称するか、最近国史館で公開された関連資料の利用、いわゆる以徳報怨論に対する佐藤栄作の思い、断交前の非公式チャネルの意味などについてアドバイスや質問があった。また、他の参加者からは、問題意識の明確化、光華寮訴訟の推移との関連、台湾・中国双方とのパイプ役として動こうとする政治家の存在、交流協会―亜東関係協会ルートの意義、米国の外交政策の影響、派閥の存在論的意味の位置づけなどについて発言があった。  三代川氏やある参加者も指摘していたが、第二次大戦後の日本外交において、日華断交はもともとあった国交が断絶したきわめてまれなケースである。くわえて、「二つの中国」や「日華・台」の二重性 (断交前も、親台派が「反共」一辺倒の「日華」で固まっていたわけではない)といった敏感な問題への対応もつねに要求されていた。そこで政権党の議員は何を考えどのように行動していたのだろうか。そこから何を得ようとしていたのだろうか。

 三代川氏によると、今回の訪問期間が始まってまもなくCovid-19の警戒レベルが引き上げられ、非常にきびしい状況での滞在になってしまっているとのことであるが、近い将来、研究が結実して世に問われる日をいまから心待ちにしている。(冨田哲 記)